人間ってみんなちょっとずつ醜いじゃん?「スイス・アーミー・マン」

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スイス・アーミー・マン (Swiss Army Man)

2016年 / 監督・脚本:ダニエルズ / 97分 / アメリカ

 

 「スイス・アーミー・マン」はハンク・トンプソン(ポール・ダノ)が無人島で首吊り自殺をしようとするシーンから始まる。意を決して踏み場の台を蹴飛ばした彼の目に映ったのは走馬灯ではなく海辺に倒れた人間(ダニエル・ラドクリフ)だった。彼はロープを引きちぎって首吊りを止め、その人間に近づく。彼は死んでいた。死体だったのだ。そこでハンクは死体にこう語りかける。「こうやって君に会ったのも意味がある。」その死体は放出されているガス(おなら)により海水に浮くことができるとわかったハンクは死体に跨って無人島から脱出を試みるのだ。

 

 こんな奇想天外な始まりをする「スイス・アーミー・マン」はこれ以降も奇想天外な展開が続く。死体が話し、口から飲料水を出し、指ぱっちんで火を起こしたりする。その光景に序盤は笑ってしまうのだが、物語が進むにつれて「生とは」「人生とは」「愛とは」 といった普遍的なテーマを死体に"文字通り"語らせることで、今作はいつの間にか「何故人間は生を選ぶことができるのか」という話に昇華されるのである。

 

 今作における"おなら"は人間の醜さの象徴である。人間なら誰しもおならはもちろん、それ以外にも見られたくない醜い部分があるし、それについて考えたら最後、皆孤独になるものだ。しかし、世界にはたった一人、その醜い部分を愛してくれる人がいて、その人と出会えた時、その孤独感を少し減らすことができる。そう、人間は自分の醜い部分を共有できる人と出会うため、それだけを希望として生きている。今作は、叶わない一方的な愛に絶望したハンクが、彼の前でおならを平気でするメニーと出会い、互いの醜さを受け入れることで愛と同時に再び生きる希望を手に入れる物語なのだ。そう、この映画は今年最高のブロマンスものなんです。

 

 コメディとは思えないほど美しい画作りと主演2人の演技には誰もが感心させられるはず。この設定や展開にノレる/ノレないは確実にあると思うが、一見の価値も確実にある一本。超オススメ。